この試合は、
ただの「ジュニアの公式戦」じゃなかった。
去年の記憶が、ずっと残っていた
去年。
息子が2年生だった頃。
人数不足で、
近隣地域のチームと合同チームを組んだ。
Tボールは出られた。
でも、スーパージュニアでは――
試合に出られなかった。
それは誰かが悪いわけじゃない。
- 練習期間は短かった
- 上級生優先は当然
- 時間も余裕もなかった
理屈では、全部わかっていた。
それでも、
息子の中には確実に残った。
「悔しかった」
その一言だけが。
1年越しの再戦
そして4月。
ジュニア公式戦の組み合わせ表を見た瞬間、
胸がざわついた。
去年、一緒にやったあのチーム。
まさかの1回戦。
息子は何も言わなかった。
でも、明らかに違った。
- 表情
- 動き
- 試合前の空気
気合が入りすぎていた。
父母会長としての限界
正直に言うと、
この頃の家庭は、ボロボロだった。
- 父母会長の激務
- 仕事
- 連絡
- 段取り
- スコア
野球中心の生活。
嫁さんのストレスも、
限界に近づいていた。
前夜の出来事
試合前日の夜。
疲れと苛立ちが爆発して、
嫁さんが言ってしまった。
「もう野球なんか、やめてしまえ」
相手は、
何も悪いことをしていない子どもだった。
息子は、
大泣きした。
「なんで?」
「頑張ってるのに」
「野球、好きなのに」
その姿を、
親として、
見ているしかなかった。
眠れない夜を越えて
泣き疲れて、
息子は眠った。
正直、
自分も眠れなかった。
「このままでいいのか」
「何のためにやってるんだ」
答えは出なかった。
試合当日、本部という場所
当日。
自分と嫁さんはバックネット裏・本部。
- 応援は禁止
- 私情は持ち込めない
- ミスは許されない
特に嫁さんは、
本部スコアという一番プレッシャーのかかる役。
好きでやってるわけじゃない。
でも、やるしかなかった。
空回りしている、という一言
試合前。
父親コーチから声をかけられた。
「今日、息子さん、気合入りすぎてる」
その一言で、確信した。
昨日のことが、昨年のことが
まだ息子の中に残っている。
一言だけ、声をかけた
本部を抜けられない中、
一瞬だけ息子に近づいた。
体は、完全にこわばっていた。
だから言った。
「大丈夫だよ」
「練習してきたじゃん」
「力、抜いていこう」
それだけだった。
そして、初回の打席
初回。
2番バッター。
高めに浮いたボール。
打った瞬間、わかった。
外野の頭を、超えた。
ツーベースヒット
息子は、
全力で走った。
セカンドでスライディング。
ツーベースヒット。
本部の席で、
嫁さんが声を上げた。
本来は禁止されている。
でも、止められなかった。
昨日の言葉と、今日の姿
嫁さんは、
泣いていた。
「昨日あんなこと言ったのに…」
「この子、本当に野球好きなんだね」
鼻をすすりながら、
スコアを書いていた。
そして、ホームへ
次のバッターの間に、
バッテリーエラー。
息子は、三塁へ。
さらに、
ボールが逸れた。
迷わず、ホームへ。
ヘッドスライディング。
一点。
選手点。
ベンチが、
チームが、
一気に沸いた。
結果よりも、大切だったもの
その試合の結果がどうだったか。
正直、細かくは覚えていない。
でも、
あの一本だけは忘れない。
- 結果じゃない
- 評価でもない
全身で「好き」を表現した瞬間だった。
親として、決めたこと
その姿を見て、
心の底から思った。
この子が野球を好きでいる限り
この子が野球をやめる日まで俺は、全部付き合おう
時間も、体力も、
全部使っていい。
次回予告(第8話)
5月。
磐田大会。
自分が高校球児として立ったグラウンドで、
今度は子どもが野球をしている。
親として、
野球人として、
時間が交差する回になります。



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